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ト・アルP「と、ある春香さんの日常シリーズ」

一年を経て、本日完結したシリーズ。

いわゆる「ノベマスの良心」系動画、ほのぼの系ノベマスの筆頭。春香を中心に〔また、基本的には春香の一人称視点から〕、その日常、つまり友人である他のアイドルたちとの関わりや、意中の人であるプロデューサーとの関係を描いていく、というのが大体の概要である。つけくわえるならば、「と、ある女史」によるグラフィックの改変や一枚絵などもその見所の一つといえるだろう。

ここでは変則的に、このシリーズを<視点として>以下の四点を〔それぞれ独立したものではなく、連続・関連したものとして〕見ていく。そのため、このシリーズの紹介という役割をあまり果たしていないのだが、その点は了承されたい。


1. ノベマスの良心とは何か
記憶が確かならば、「ノベマスの良心」なるタグの初出はこのシリーズである。だが、そもそも、「ノベマスの良心」とは何か。

ニコニコ大百科を参照すると「良心的な動画、つまり綺麗な、心温まる動画につく」とあるが、これも今ひとつよくわからない。よくわからないのはなぜかというと、書いた私じしんが、この時点で具体的なイメージを持ちえなかったからである。

なるほど、何となくイメージはつく。アイドルたちがかわいくて〔もっとも、大抵の場合かわいいのであるが〕、ほのぼのした雰囲気をもっている動画といったところだろうか。

ここで、一つ補助線を引いてみたい。キャラクターの改変である。

注意しなければならないのは、「キャラクターの改変」が行われていないファンフィクションなど存在しないということである。つまり、「キャラ改変がないものが好み」という嗜好は、自家撞着をおこしているのだ。なんとなればすなわち、作者じしんというフィルターが存在する以上、そこには必ず解釈があり、つまりそれは、そこで「改変」が起こっているからである。だから、「キャラクターの改変」というものは度合いで示されるしかない。あるいは逆に、「キャラクターの改変」など存在しない、ともいえる。それは上記の理由からでもあるが、同時に、固定化されたキャラクターの設定というものが存在しないからでもある。というのも、キャラクターの設定はそもそもファジーなものだからであり、また、作品はその作者の所有物ではなく、その作り手と受け手の間にあるものだからである。

さて、迂回路をたどった上で、このシリーズをはじめとする「良心」動画のキャラクター設定に目をやると、その良心の何たるかの一端が見える。それは、〔前述の通り〕キャラクターの改変がないということではなく、逆に、必ずプラス方向にキャラクターの改変がなされていることである。換言すれば、キャラクターの長所を伸ばし、短所を消す方向にある、ということである。逆に、ギャグ系のファンフィクションでは、短所を引き伸ばすことによって笑いを作り出していることが多い、ということもまた、同時にいえるだろう〔ベタなネタでいくと、千早の胸ネタはその好例だ〕。


2. ファンフィクションの方向性
では、その改変の方向は、数多くのファンフィクションの中でどのような位置づけにあるのだろうか。

大雑把にいえば、ファンフィクションは四つに分類できるように見える。キャラクターに注目したもの、ストーリーに注目したもの、コメディ、そしてその他である〔もちろん、この分類は便宜的かつファジーなものであり、必ずその一つにあてはまる、というわけではない〕。

一つめの代表はこのシリーズである。原作のキャラクターに思いいれを抱き、そのキャラクターをどうこうしたいといった欲望から生み出される。キャラクターたちが終わりのない日常を〔「ビューティフル・ドリーマ-」的に〕ほのぼのと過ごすパターンである。

二つめは例えば、ななななな~Pの「春香と灰春香」である。原作のストーリーをクリティカルに改変していく傾向にある作品群であり、大抵の場合、シリアスなムードがその主調となる〔最近の例でいえば「歌姫の生まれる前」がこれにあたる〕。

三つめは例をあげる必要がない気がするが、例えばストレートPやペデューサーPといった作り手の動画である。これに関しては、読んで字の如くであり、説明を省く〔実のところ、このあたりは一つめと大いにかぶるのであるが、そこについての論は擱く〕。

四つめは例えば、陽一Pの「Bullet×M@sters」である。原作のキャラクターや設定をところどころ使いながら、それ以外の何物かになっている、いってしまえば上記の三つには分類不能な作品群である〔タミフルPの動画もここであるように思う〕。

この分類のもとで、前者二つを考えた場合、その注視している点は、ファンフィクションの方向性であると同時に、作り手がお話を作るときに主眼とする点でもあるといえる。言ってしまえば、一つめのタイプは、まずキャラクターが脳内にあって、それをさまざまなシチュエーションにおき、キャラクター各個人が動き出していくタイプであり、二つめはまずドラマが先にあるタイプである〔もちろん、作者本人に確認をとったわけではないので、ただの憶測であるが〕。

よって、いわゆる「良心」系は当然のことながら、一つめの分類にあたることになる。これは、作り手の欲望の方向性からして必然である〔というより、そもそも同義反復的ですらある〕。


3. ファンフィクションとポルノグラフィー
ここで、ファンフィクションが欲望するものを考えると、それは大抵の場合、キャラクターであるといえる。キャラクター商売が隆盛にある時期においては、特にそうだ〔なお、欲望するものと、それを具現化する方法論は別のレイヤーにある、つまり、キャラクターへの欲望からファンフィクションは作り出されるが、その制作の方向としてキャラクターを指向するか、原作のストーリーを指向するか、あるいは…という問題はその欲望とはひとまず違う次元にある――もっとも、キャラクターを指向する方向性をとった場合に、その欲望は露骨に表れるが〕。いいかえれば、ファンフィクションの快楽の中心は、キャラクターをいじり、想像することにあるということ、あるいはそれを受容するということでもある〔嫌な言い方をすれば、それは象徴的な意味でキャラクターをレイプすることでもある〕。

こう考えてみた場合、ファンフィクションはすなわち、〔映画「ファイト・クラブ」がそうであるのと同じ意味で〕ある種のポルノグラフィーであるともいえる。キャラクターへの欲望を前提とし、かつ、その欲望を刺激し、倍化させる装置だ〔エロ系のファンフィクションも多くの場合、方向性としてキャラクターに注目して制作されていることも、このことを裏打ちしているようにみえる〕。

この意味で、〔ファンフィクションは全般としてポルノグラフィックではあるが〕先にあげた第一種のタイプ、そして「と、ある春香さんの日常シリーズ」は多分にポルノグラフィックである〔銘記しておくが、けなしているつもりは全くないし、むしろ称揚しているのである〕。そしてそのことはつまり、ファンフィクションの快楽の中心をおさえているということである。

キャラクターをプラス方向に改変し、その原作では描かれなかった、描きえなかった<日常>を描出すると同時に、作り手と受け手の欲望を反映するような物語を作る、そのことこそがこのシリーズをファンフィクションの、あるいはノベマスの王道たらしめている所以である。また、このシリーズにあたっては物語が徹底的にベタなものであることもまた、それを強化しているといえるだろう。


4. 説明とフック
最後に、私が感じたこのシリーズの文章の特徴について述べる。

それは、説明が過剰であるということである。基本的に、登場キャラクターの気持ちなどは、ほとんど明示的に示されている。

これは、ニコニコ動画という場においては、一つの強烈な仕掛けになっているように思う。というのも、ニコニコ動画は動画にコメントがつくという大きな特徴があるからである。つまり、その明示された何かがフックとなり、それについてコメントがつき、そしてまたそれがさらなるコメントを呼ぶ、という流れになっているのではないか、ということである。あえて説明を省くことによりフックをかける方法[レティサンス]も使われてはいるが、メインの手法にはなりえていない〔逆に、「糸」では特に動画部分においてのレティサンスがその主な手法となっているともいえる〕。

もちろん、何でもかんでも説明すればいいというわけではないが、このシリーズにおいては、その王道なドラマと相俟って効果をあげているようにみえる。つまり、王道なドラマだからこそ、他ににたような作品の経験があり、また先が読みやすいため、反応がしやすくなっている[コメントがしやすくなっている]のではなかろうか。


■参考
ペデューサーPによる紹介
愛識Pによる紹介
桜飯Pによる紹介
ショコラさんによる紹介


■附記1
やっぱこのシリーズ、ネタコメント残したくなりますよね。ええ、なりますとも。

■附記2
新作紹介すると書いておきながらこうなったのは、要するにこのシリーズが完結するとあっては書かなくてはいけない、と、まあ、そう思ったからでありまして、はい。完結編が出ると知ってからじわじわと見返したり、メモをとったりしておりましたですよ〔お腹いっぱいです〕。アホだから見返してメモ作んないと書けないんですお(´・ω・`)
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