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12/13/2008    
「アイマスじゃないけどどうしよう」とか言ってた奴をとりあえず書き上げたので、ココでさらしちゃいまふ。千早の話ですね、一応。関係ないけど、この記事の記事番号が72でした。関係ないけど。

別に笑えもしないしニヤニヤもしない、妙な話です。あまり短くはないので注意してくらはい。
…どうしてこんな風になってしまったのか、自分でもかなりの疑問です。ええ。

あと、■とか■■とか妙な記号が入っているのは仕様っていうか、まあ動画にしようと思っていたころの名残です。消してみたら読みにくかったので残してみました。■がカット、■■がシーン、■■■がシークェンスにそれぞれ対応しているような、していないような。

以下格納。
■■■
処理屋に電話をかけると、麻倉はデポジットのお金をどのように使うかについて思いをはせた。新しいやつを買う足しにするのもいいが、どうせあぶく銭なんだし、どこかでパッと呑んでしまってもいい――そんなことを考えながら、近くにおいてあったメモ帳を右手でパラパラと音をたててめくった。

十年近くまえに買ったロボット――CHIHAYAはさすがにもうガタが来ていて、修理にだすより新しいものを買った方が安くつく、ただそれだけの理由だった。ネット上を調べると、好事家がいるらしく様々なメインテナンスの情報が見つかるが、そこまでするほど暇ではないし、かける情熱もない。



家庭用のロボットが売りだされるようになったのは、もう随分と昔のことだ。出た当初はかなりの値段がしていたものの、時がたつにつれ値段は下がり、多くの家庭で人型や、あるいはそれに類するロボットが人々の世話をするようになっていた。

CHIHAYAはそんな過渡期に売り出されたロボットの一つだ。「マスターズ」というシリーズ名で売り出された一連のロボットは、多くの人間に――というより、多くの男性に、だが――買われていった。「彼女たち」は基本的なスペックを共有しながら、それぞれ異なった「個性」をもっていた。CHIHAYAのように歌の機能をもつもの、MAKOTOのようにパワーのあるもの、あるいは、HARUKAのようにバランサーに難があったり、MIKIのようにエネルギー効率が悪かったりするものも、「個性」として愛されていた。

だが、盛者必衰の理どおり、「彼女たち」にも終わりが来ていた。所詮は消費財である。次々と生みだされる新製品の波に押し流され、一時期の熱狂が嘘のように忘れ去られていった。

そして、ここ麻倉の家でも、CHIHAYAはその役割を終えようとしていた。



■■
スリープモードにしてあったCHIHAYAを起こす。静かに駆動音がなり、ファンが回転をはじめる。

目を覚ます。ぱっちりと瞳がひらき、こちらを見つめている。そう見える。つるりとした顔にむかって、麻倉は話しかけた。

「おはよう、ちはや」
「おはようございます」

なぜだかおかしくなり、ふふ、と笑ってから、CHIHAYAの頭をぽんぽんと撫でた。CHIHAYAはくすぐったそうに――あくまでくすぐった「そうに」――目をとじた。

麻倉をじっと見つめているCHIHAYAに、笑顔で話しかける。

「なあ、ちはや」
「はい、何でしょうか?」
「……何だろうな」
「どうかなされたのですか?」

今はもういなくなってしまった麻倉の妻が買ったアンティークの時計がコチコチと針を進める音と、CHIHAYAから漏れてくる音だけが、そう広くはないリビングに響いていた。

ふたたび、麻倉はCHIHAYAの頭を撫でた。

「何でもない」
「かしこまりました」

そうか、明日処理屋がきて、ちはやが回収されてしまえば「一人」になるのだな、と麻倉は思い至った。一人身になってすぐにCHIHAYAを買ったため、あまり一人で暮らしたという記憶はなかった。そろそろ四十というころになって孤独とはな、と自嘲して、数少ない金のかかる趣味である煙草に手をのばした。

「ちはや、火、つけて」
「かしこまりました」

近くにおいてあったライターを手にとり、火を差しだされる。先端にシュボッと火がつくと、麻倉は深く吸いこんでから、うまそうに紫煙を吐きだした。

「ちはや、飲み物がほしい」
「かしこまりました。何がよろしいですか?」
「…紅茶、いや、コーヒーがいい」
「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」



なんだか寂しいな、と麻倉は思った。それはがらんとした部屋のせいなのかもしれないし、何も音がしないせいなのかもしれない――CHIHAYAが淹れた、いつもどおりの変わらぬ味のするコーヒーを啜りながら、そんなことを考えていた。

「なあ、ちはや」
「はい、何でしょうか?」
「歌、歌ってほしい」
「何がよろしいですか?」
「…何でもいい」
「…………」

コーヒーの甘い香りが鼻腔をくすぐり、煙草の煙を押しだしていく。

「…そうだ、最初に歌ってくれた奴がいい」
「…………」
「何だっけ、ほら、デイジーがどうとかっていう…」
「…デイジー・ベルでしょうか?」
「そう、それをお願い」
「かしこまりました」

CHIHAYAが歌いだす。二十世紀にコンピュータがはじめて歌った曲、『2001年宇宙の旅』でHALが狂いながら歌った曲だ。開発者の趣味なのか、「歌う」機能が搭載されいてるロボットには、必ずといっていいほどこの曲のデータが入っている。



CHIHAYAは歌いだす。不器用な男のラヴ・ソングを。

――デイジー、デイジー
――こたえてくれよ
――おかしくなるくらい君が好き
――結婚式はハデにできないし
――馬車だって仕立ててやれない
――でも、きっとすてきさ
――自転車に二人のりして

麻倉はCHIHAYAの、機械の出す独特の、しかしどこか少し調子の狂ってしまった、それでもやっぱりききなれている声を、黙ってきいていた。



歌がおわってしまい、部屋の温度がしん、と下がる。青い青い静寂がやってきた。

麻倉はもう一本煙草を取りだし、今度は自分で火をつけた。ほのかなバニラの匂いがただよう。

もしかすると、煙草のヤニが、自分にそうなっているように、ちはやの中にもこびりついているかもしれない、などと考えて、麻倉はすこしだけぞっとした。定期的にクリーニングやメインテナンスは行っているのだが。

「なあ、ちはや」
「はい、何でしょうか?」
「…いや、何でもない」
「かしこまりました」

麻倉は黙って、のこりの煙草を吸いきった。



■■
気がつくとCHIHAYAはソファにくずおれて停止していた。ここ一年よくあることだった。床に倒れてしまわなかったのは僥倖だ。CHIHAYAの体は、重い。ソファはくっきりとへこんでいた。

麻倉は倒れこんだCHIAHAYAを抱きおこし、背中を向けさせた。さらさらとした頭髪をすいて、邪魔にならないように脇にのけた。ジッパーをおろし、合成樹脂の肌をあらわにする。カバーをとりはずし、奥へ、奥へ。



口笛をふいていた。リズム感も音感もない、へたくそな口笛がからっぽのリビングにこだましたが、麻倉はそれに気付いていないようだった。

麻倉の妻は歌が好きで、何かなくとも始終歌をうたっていた。料理をするとき、コーヒーを淹れるとき、洗濯をするとき、掃除をするとき、彼女は楽しそうに歌をうたっていた。そしてそんなところに、麻倉は惹かれたのだった。



「これでよし、と」

ちょっとした修理が終わり、CHIHAYAが目をさます。

「おはようございます」
「おはよう、ちはや」

また、その頭を何の気なしに撫でた。



■■
夕刻になり、規定の時間がくると、CHIHAYAは夕食について麻倉にたずねた。

「夕ご飯はいかがなさいますか?」
「…何でもいい」
「かしこまりました」

データをロードする。メニューのデータベースと、保持している食材と照合して献立を決める。一瞬のことだ。

CHIHAYAが台所に立って、麻倉は一人リビングに取りのこされた。

煙草をくわえて火をつけると、がさごそと人工皮革の鞄をあさって、薄いポータブル・コンピュータを取りだした。テキストデータを呼びだすと、丁寧にジャンル分けされた一覧があらわれる。

古い古いサイエンス・フィクションを、麻倉は読みだした。



料理の匂いにのって、鼻歌が台所から聞こえてきて、リビングを満たしていた。

ああ、何て名前だったかな、と麻倉は覚えてもいない題名を思いだそうとした。いつも名前をきいては忘れてしまう。子供の時分からそうだった。

題名も覚えていなければ、歌詞も覚えていない、その旋律は柔らかくて、なぜだか少し懐かしかった。いつもどおり、麻倉は題名をきこうとして、料理をしている彼女の後姿に声をかけた。

「なあ、この歌の名前――」



体をゆさぶられている。

「夕ご飯ができました」

目をさますと、前には顔があった。抱きしめるとその体は硬く、麻倉はようやく、それが夢であったことに気が付いた。

「どうかなされたのですか?」
「いや、何でもない。うん…何でもない」
「かしこまりました。夕食の準備ができています」
「ああ、わかった」



■■
食後の一服を終えると、麻倉はしばらく思案してから、おもむろに立ち上がった。携帯電話をとって、通話履歴をあさり、うつむきながら通話ボタンを押した。

「すみません、先ほど電話いたしました麻倉と申しますが――」




■■■
バイクにCHIHAYAの体をくくりつける。どうやらこの程度の重さなら、まだなんとかなるらしい。

バイクにまたがると、念のため後ろに座っているCHIHAYAの手を前にまわさせて、固定した。背中にぐったりともたれかかる体重を感じた。

エンジンをかける。もう夕方だ。街がとても赤い。長い長い影がヘルメットにかかる。麻倉とCHIHAYAをのせたバイクは処理所にむけて進みだした。

ビルとビルの隙間をぬう。街路樹がびゅんびゅんと過ぎさっていく。エンジンの震動と音とが二人をゆらす。

信号で一度停止すると、麻倉はなぜだかヘルメットを息苦しく感じた。隣に止まっている車からは大音量の音楽がだだ漏れだ。ちらりとそちらの方をみやる。二人の男女が体を揺らしながら笑いあっていた。信号がかわると、その車は音の残り香をおいていってしまった。麻倉もまた、進みだす。



知らず知らずのうちに、鼻歌をうたっていた。

麻倉はそれに気付くと、はっとしてから、少しだけ苦笑した。

――デイジー、デイジー
――こたえてくれよ

麻倉は歌いだす。

――おかしくなるくらい君が好き

歌声は次第に大きくなって、妻よりも、CHIHAYAよりもへたくそな歌が、ヘルメットにこだました。

――でも、きっとすてきさ
――自転車に二人のりして

自転車じゃなくてバイクだけどな、と麻倉は歌いながら思った。
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